世界でひとつだけのケーキを Stay Story

揺れる世界の中でビジネス界にも変革の波が押し寄せ、さまざまな形でその影響が表われている。例えば、僕のスケジュール帳は例年より細かい文字で埋め尽くされている……といった具合に。そんな中にあっても仕事に打ち込める環境を整えてくれる家族と特別な時間を過ごしたくて、東京の湾岸部にあるホテルを訪れた。
　もうすぐ2歳になる娘は、窓の外の景色に夢中だ。ゆりかもめ、バス、航行中の船。何か乗り物が通るたび、指差しながら僕を振り返る。そんな彼女に楽しんでもらおうと、自分たちで飾り付けることができるクリスマスケーキ付きのステイプランを選んだ。彼女は大好きないちごを手に取って一度僕を振り返り、白いキャンバスに迷うことなく最初の色を付ける。その躊躇のなさに、新たな成長の一片を見る。星型のホワイトチョコレートにラズベリー、銀色のアラザンを配し、世界でひとつだけのクリスマスケーキが完成した。どんな有名パティシエが作るケーキより僕にはこのケーキが美しく思えて、ファインダーを覗く目に水分が満ちる。
　いつの間にか窓の外が濃いブルーに覆われていた。初めての大役に興奮したのか、ぐっすり眠っている娘を起こさぬよう、夫婦で静かにグラスを合わせる。小さなチンという音を合図に、家族の時間が夫婦の時間へと切り替わった。前日、雨が降ったせいか、光の粒ひとつひとつがくっきりと際立つクリアな夜景がやけに美しい。1年の区切りに、今日のような1日を家族の恒例行事にしよう――そう思うだけで、体の芯から温かな力が湧いてきた。